『馬車が買いたい 19世紀パリ・イマジネール』

馬車が買いたい!―19世紀パリ・イマジネール

馬車が買いたい!―19世紀パリ・イマジネール

☆☆☆☆☆
とてもおもしろかった。あまりに豊富な画像資料に感動。別の本でこの本をきっかけに、著者が十九世紀フランスのイラスト本を買い漁るようになったと書いてあったが、なるほど「買い漁った」だけのことはある。基本的に世界史の授業では、十九世紀フランスの政治体制の変遷や、印象派アール・ヌーヴォーなどの絵画史までは勉強するが、そういう「大きな歴史」の片隅で*1社交界デビューを夢見て公共の遠距離馬車に乗ってくる若者たちや、そんな貧しい若者たちのために食事を用意するレストランの女将さんや家主、そしてなにかすてきな出会いがないかしらと、今夜も盛り場に向う女の子たちが連日連夜、パリの街を歩いていたのだ。この本はそういう若者たちの足跡、いわば「小さな歴史」をバルザックフロベールなどの小説の主人公を導き手に、繰り返しになるが(なんど繰り返しても言い足りない!)豊富な画像資料で紹介する。良知力の『青きドナウの乱痴気』を思い出すが、『馬車』がほぼ一世紀のパリの変遷を網羅しているのに対し(馬車から電車への移行など)、『青き』の場合はあくまでも1848年の一年間のウィーン市民の姿を描き出している(はずだ)。

青きドナウの乱痴気―ウィーン1848年

青きドナウの乱痴気―ウィーン1848年

※なお上記表紙画像の写真は手元にある本と表紙のデザインが異なる。馬車に女性が乗っている絵が反転していて、その上に大きく赤字で「馬車が買いたい」と描いてある。

*1:でも実は「大きな歴史」のほうが「小さな歴史」の片隅なんじゃないかとも思える