文学的パリガイド

文学的パリガイド

文学的パリガイド

☆☆☆☆★

NHKフランス語会話のテキストに連載されたものを纏めたもの。あとがきによると「パリの名所・旧跡を巡りながら、歴史と文学の知識欲が満たせるようなガイドブック」(p247)である。著者を、古本狂として知ったので、この本で(ちゃんと)フランス文学の話をしていることに戸惑う。なんだか、読めない文字のちょっと匂いがする古い本を自分の部屋に山ほど抱え、そのなかでニタニタしている父親が、大学では壇上で近代フランス文学の200年の歴史を色鮮やかによみがえらせている気鋭の大学教授でびっくりした子供の気分だ(なんじゃそりゃ)。表紙はエッフェル塔にPARIS GUIDEと描かれたトリコロールの気球が描かれていてとてもかわいらしい。パリに行くときにはぜひともお供にしたいが、残念ながら今のところその予定はない(どこにもない)。ところで、昨今山のようにあるパリのガイドブックのなかで、この本に写真が一枚もないのは特徴的なことだと思う。文学というテクストのなかにあるパリに思いを浮かべる、という振る舞いはいつごろまで残っていただろうか。今となっては、写真満載のガイドブック(あるいは旅行用のサイトも山のようにあるのだろう)をみて、瀟洒なホテルをネット予約して、パリミシュランを見てフランス料理に舌鼓なんて、よく言えば効率的、悪く言えばマニュアルめいたパリが幅を利かせているように思う。パリにいってあの本の主人公みたいに、この通りを歩いてみたい、という空想的な想いに駆られるというのは、写真ではなく文学、イメージを描いたテクストだったから可能だったはずだ。この本が、データを充実させている一方で写真を使っていないのは確信犯ではないかとひそかに思っている。