『ある家族の会話』

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

そういえばこれまでハードカバー版を見たことがない。

これらのことばは、われわれの共通(ラテン)語であり、私たちの過ぎ去った日々の辞書なのだ。それは古代エジプト人やアッシリア人バビロニア人たちにとって象形文字がそうであったように、幾多の大洪水を切りぬけ、時間の侵食にも朽ちることなく、これらの辞句の中に生き続けてきた、いまはもうどこにも存在しないあるいのちの共同体の証しなのである。これらの言いまわしは、私たちの家族のまとまりの大切な土台であり、私たちが行き続けているかぎり、地球上のあちこちでたえずよみがえり、新しい生を享けて生き続けるだろう。それがどこのどういう場所であろうと、だれかが「敬愛するリップマンさん」といえば、私たちの耳には、あの父のいら立った声がひびきわたるだろう。「その話ならもうたくさんだ。何度聞いたかわからん」

☆☆☆☆★
読んだ。物語の序盤に出てくる以上のことばに象徴的なように、ギンズブルグの過去あるいは記憶に対する立場はきわめてポジティブである。家族のことばは結晶化されて、いつかどこかで救出される時を待っているのだ。このような彼女の姿勢は、物語には一度も名前が挙がることがなかった(多分)息子カルロの歴史研究、いわゆるミクロヒストリーにも大きな影響を与えているように思う。

○これが新刊(母と子)!

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

糸と痕跡

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